医療法人が出資持分払戻の裁判で第一審判決が出されるまでに準備すること(前半)
「日本では裁判は三回までできる」という話を聞いたことがあるかもしれません。日本の裁判制度は、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所という三段階の裁判所で判断されることが原則とされており(例外もあります)、この制度は三審制などと呼ばれています。
しかし、このことは、例えば医療法人の出資持分払戻請求の裁判において、「医療法人側は、三回目の最後の裁判で負けが確定するまではお金を準備する必要はない」ということを意味するものではありません。
実際には、最初の裁判の判決(地方裁判所での判決。第一審判決といいます)が出る時点までに金銭の都合をつけておくべき場合もあります。
これから、(1)最初の裁判の判決が出されるとどうなるのかという話と、それを踏まえて(2)判決前に医療法人・弁護士は何を準備しておくべきなのか、ということを説明いたします。
長くなりますので今回は、(1)最初の裁判の判決が出されるとどうなるのかという話をしたいと思っています。
例えば、退社した社員が出資持分払戻金6000万円の支払いを求めて裁判を起こし、これに対して、医療法人側は「退社社員が実際には出資をしていなかった」として争ったとします。そして裁判の中で、退社社員と医療法人との間で何回か和解の話し合いがされたが、それもまとまらなかったとします。
このような事例で、退社社員の主張が全て通った場合、最初の裁判の判決(第一審判決)の判決文は以下の様な書かれ方をされることになります。
1 被告は、原告に対し、金6000万円及びこれに対する平成25年4月1日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。
要するに、「医療法人側は退社社員に6000万円を支払いなさい」という内容です。
そして、これが今回のポイントなのですが、判決の3の部分に注目していただきたいと思います。
これは、「仮執行宣言」というものです。医療法人の出資持分払戻訴訟の判決にはほとんどの場合にこの「仮執行宣言」がつきます。
判決にこの「仮執行宣言」がついているとどうなるかといいますと、この判決が出た時点から退社社員側は医療法人に対して強制執行ができるようになります。
つまり、医療法人側が「6000万円を支払え」という判決を不満に思い、2番目の高等裁判所で判断をして欲しいとして控訴を申立てると裁判は続くことになるのですが、裁判が続いている間でも退社社員側は強制的な取り立て行為が出来てしまうのです。
具体的に言いますと、退社社員側は、医療法人の銀行口座を差押えたり、社会保険診療報酬支払基金や都道府県国民健康保険団体連合会に対する診療報酬請求権を差押えたりすることができるようになるのです。