混合診療とTPPについて
混合診療について
政府が「混合診療の禁止」の例外である保険外併用療養費制度を拡大する方針であることが、平成25年6月12日に報道されました。これは日本のTPP参加を見据えた「混合診療の禁止」撤廃への流れの一つなのではないか、とも言われています。今回は、「混合診療の禁止」について述べていきます。
「混合診療の禁止」とはどういうものか?
日本では、保険診療と保険の適用がない自由診療との併用はできないとされています。これが「混合診療の禁止」と呼ばれているものです。
たとえば、保険診療の対象となる診療を受けて10万円かかったとします。自己負担が3割とすると患者は3万円を支払えばよいことになります。
しかし、仮に、保険診療の対象となる診療を受けて10万円かかり、その他に自由診療として20万円分の診療を受けたとします(混合診療)。
この場合、現行制度では、保険診療相当部分について自己負担分の3万円の支払い、自由診療部分については20万円の支払い、合計で23万円の支払い、という形にすることはできません。
すなわち、混合診療を受けた場合には、保険診療部分についても保険給付はされないとされているのです。つまり、患者は受けた診療の全額、上記の場合には30万円を支払わなければなりません。これが「混合診療の禁止」です(正確には、「混合診療保険給付外の原則」です)。
「混合診療の禁止」の例外、「保険外併用療養費制度」
「保険外併用療養費制度」とは、この「混合診療の禁止」についての例外の制度となります。現在も、例えば差額ベッド代や一部先進医療については、別途費用を徴収できることになっています。これが「保険外併用療養費制度」による例外です。この例外がないとすると、患者が差額ベッドを利用した場合は保険診療相当部分も全額負担しなければならなくなります。
今回の政府の方針は、この保険外併用療養費制度の範囲を拡大していこうというものです。
「混合診療の禁止」の法律上の根拠
混合診療がどのような根拠に基づいて禁止されているのかということについてですが、実は明確に「混合診療の禁止」を定めた法律の条文はなく、解釈論によって成り立っています。
最高裁判所は、平成23年10月25日付の判決で、健康保険法86条等の規定の解釈で保険外併用療養費制度の要件を満たさない場合には保険診療相当部分についても保険給付は行えない、と述べて混合診療禁止の解釈を明らかにしています。
しかし、健康保険法86条は保険外併用療養費についての条文であって、正面から混合診療の禁止を述べているわけではありません。
最高裁判所も同じ判決文の中で、「評価療養の要件に該当しない先進医療に係る混合診療においては保険診療相当部分についても保険給付を行うことはできない旨の解釈が、法86条の規定の文理のみから直ちに導かれるものとはいい難い」と言葉を濁しています。
なお、この判決では田原睦夫裁判官が補足意見において「昭和59年改正及び平成18年改正の際に、法(注:健康保険法)にその旨の明文の規定を設ける機会が存したにも拘わらず,その趣旨の規定を設けようとせず,また,それらの法改正に係る国会審議の場においても,混合診療保険給付外の原則の適否が正面から論議されることはなかった。」と厳しく指摘しており非常に興味深い内容となっています。
「混合診療の禁止」の理由
混合診療が禁止されている理由として、日本医師会などは(1)混合診療を認めることによって、政府が現在健康保険の対象の診療についても保険外とする可能性がある、(2)混合診療が認められると保険外の診療は患者の負担となるため、お金のある人とない人の間で不公平が生じる、などを理由として挙げています(参考:日本医師会「混合診療ってなに?」)。
政府による「混合診療の禁止」の例外拡大の方針とTPP
そして、今(平成25年6月13日現在)、論点となっているのが、日本のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加と混合診療の解禁についてです。
TPP交渉では関税撤廃についてだけでなく、医療を含めたサービスの自由化についても議論の対象となります。
TPPに参加した場合、国民皆保険制度が参入障壁であるとして外国から提訴され、最終的には混合診療も解禁せざるを得なくなるのではないか、というのが日本医師会などが抱いている懸念です(日本医師会「TPP交渉参加について」(平成25年3月15日付))。
今回の保険外併用療養費制度の拡大方針については、TPP交渉に積極的な現政府による「混合診療の禁止」撤廃の流れの一環ではないか、とする見解があります。
(平成25年6月13日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。