弁護士による医療法人法入門(7)
医療法人の理事について(中編)
前回に引き続いて医療法人の理事について説明をしたいと思います。前回は、医療法人の理事の選び方、人数、任期、資格といった前提や条件を中心に述べましたが、今回は理事の権限や役割について説明したいと思います。
理事は医療法人の中でどのような役割を持つのでしょうか。
理事は理事会の構成員ですので理事会に出席して一票を投じる権限を持っています。それでは、その他に理事は何ができるのでしょうか。
実は、法律には理事がどういう権限や役割を持っているか、ということはあまり書いてありません。
医療法人について定めている法律は医療法ですが理事の一般的な権限や役割について具体的に書いてあるのは
(1)理事長に何かあったら理事が代わりに理事長の役割・仕事をする(医療法第46条の4第2項)
ということと
(2)定款などで特に決められていない場合には理事の過半数で医療法人の業務方針を決める(医療法第46条の4第3項)
という二点だけです。
要するに、医療法には、ある一人の理事がどのような権限や役割を持っているのか、ということについては書かれていないということになります。
法律に書かれていない場合に、次に見るのが医療法人の定款です。
定款は、医療法人ごとに作られるものですから、本来はその内容も千差万別であってもおかしくはありません。しかし、行政が公表しているモデル定款を参考にしている医療法人がほとんどであったり、定款が作成される法人設立の際や、定款の変更には行政の認可が必要とされていて定款の内容にも指導が入ることから、多くの医療法人では理事の権限や役割等の部分についてはおおむね似たような記載になっていることが多いのです(しかし、たまに風変わりな記載のある定款を目にすることもあります)。
定款にはほとんどの場合、以下のような記載があるかと思います。
理事は、本社団の常務を処理し、理事長に事故があるときは、理事長があらかじめ定めた順位に従い、理事がその職務を行う。
つまり、「理事は医療法人の常務を行うことができる」とされています。
すると、ここで「医療法人の常務」とはどういうものか?ということが問題となります。
厚生労働省の「医療法人運営管理指導要綱」を見ても常務が何かということについては書かれていません。また、東京都福祉保健局の公表している「医療法人運営の手続」にも「理事は、医療法人の常務を処理します。」とだけ書かれていて、常務の内容については触れていません。
そのため、医療法人の常務がどういうものかということについては解釈で考えることになります。
社員総会について述べた回で説明いたしましたが、社員総会では定款に掲げられた重要事項を決め、それ以外の事項の決定については理事会で決めることになります(詳しくはこちらをご覧ください)。
そうすると、理事会で決められた方針を実際に実行する場合や、理事会で決めるまでもない日常の業務、これが常務である、と考えることができるかと思います。他には、理事会で決められた方針を実行することは理事会で各理事に委任された個別事項なので常務にはあたらず、理事会で決めるまでもない日常の業務だけが常務なのだ、という考えもできると思います。
こういった「理事が何をどこまでできるのか?」という点の解釈については、医療法人内で理事が理事会の決議なしに様々な対内的・対外的行動をしたような場合に、その理事の行為は認められるものなのかどうかという点で争点になることがあります。
次回は、理事がどのような責任を負うのかといった点について説明をしていきたいと考えております。
(平成26年7月1日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。