弁護士による医療法人法入門(6)
医療法人の理事について(前編)
医療法人の理事について説明をしたいと思います。理事についてはお話しすべき点が多くありますので複数回に分けて説明をしたいと思います。
今回は、医療法人の理事をどのように選ぶのか、理事の数、理事の任期、理事の資格について述べていきます。
理事は社員総会の決議によって選ばれます。実は、普通の医療法人に関してはどの機関が理事を選ぶのか、ということについては医療法には明確に書かれていません。通常は定款の方で社員総会が理事を選ぶこととされています。医療法では、原則としては、社員総会が全てを決めるという前提になっています(医療法第48条の3第7項)ので、このことは医療法の考えからしても妥当だと思います。
理事の人数について
医療法人について定めている医療法には、医療法人には原則として理事を三人以上置かなければならない(医療法第46条の2第1項)としています。理事を一人あるいは二人にする場合には行政の認可が必要とされていて、なかなか認められるものではないようですので、欠員が生じたときには速やかに理事を補充しなければならないということになります。
理事の任期は二年間です(医療法第42条の2第3項)が、社員総会の決議があれば再任されることもできます。
このことは継続的に勤めている理事であっても、二年ごとに社員総会によって再任されなければならないということです。
たとえば、「完全に家族で運営している医療法人で、院長先生が理事・理事長を務めることに誰も何の疑いもない」という状況があったとしても、院長先生は理事であるために二年に一度は社員総会で再任の決議をもらわなければならないということになります。
理事の資格について
では、どういう人が理事になれるのでしょうか。理事になるための資格の問題です。
理事になれる人については、かなり広く考えられています。
医療法人は「こういう人が理事になれる」という書き方ではなく「こういう人は理事になれない」という逆の書き方をしています。
医療法では次のような人たちは理事になれない、と書かれています(医療法第46条の2第2項。要約しておりますので正確に把握されたい方は医療法の原典に当たってください)。
1 成年被後見人又は被保佐人
2 医療関係の法律で罰金以上の刑になり、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から計算して二年を経過していない人
3 2にあたる人以外で、禁固以上の刑になり、その執行を終わってない人等
ここに書いてある以外にも法人は理事になれないと考えられていますし、未成年者がなることも適当ではないと行政は指導しています。
たまに誤解なされている先生がいらっしゃるのですが、理事になるためには「医師あるいは歯科医師でなければならない」あるいは「社員でなければならない」という縛りはありません。
理事であることが必須とされている立場について
どういう人が理事にならなければならないのでしょうか。理事であることが必須とされている立場について説明します。
(1)理事長
理事長は、理事の中から選ぶ(医療法第46条の3第1項)とされていますので、理事でなければなりません。理事長の任期の上限は2年(再任可)ですが、これは理事の任期が2年とされていることからきています。
(2)病院・クリニックの管理者
医療法人が開設している全ての病院・クリニックの管理者(院長であることが多いでしょう)は、医療法人の理事になる必要があります(医療法第47条第1項)。管理者を理事に加えなくてもよい場合は行政(都道府県知事等)の認可を受けたときです。しかし、指導要綱などでは「管理者を理事に加えないことができる場合は、多数の病院等を開設する医療法人で離島等法人の主たる事務所から遠隔地にある病院等の管理者」とされていて相当ハードルが高いものになっています。
なお、病院・クリニックの管理者であることを理由にして理事になった先生は、管理者を辞めたときには理事の職も失うことになっています(医療法第47条第1項)。
常務理事について
また、「常務理事」という肩書きの役職がありますが、これは医療法で定められた役職ではありません。あくまで任意の役職なので、医療法人の定款に定めていれば置くことができます。逆にいいますと置かなくてもかまわないのです。
常務理事は、理事長を補佐するという医療法人のナンバー2としての役割を担うことが多いでしょう。ただし、法律上はあくまで一理事にすぎません。
理事の登記について
かつては理事の選解任も登記されていました。しかし、現在は理事について選解任をしても、登記をする必要はなく行政に届け出るだけで済みます。医療法人において登記をしなければならない役職は理事長だけです。
次回は、理事の役割や責任などの実体的な部分について説明をしていきたいと考えております。
(平成26年6月24日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。