弁護士による医療法人法入門(4)
医療法人の社員・社員総会について(後半)
今回は、医療法人の社員総会で何を決めることができるのかについて説明したいと思います。
社員総会は医療法人の最高意思決定機関とされています。医療法人運営の実務を行う理事等の役員を選ぶ権限を持っていること、社員総会の構成員である社員の入社除名を社員総会自身が決めることなどから、私としても社員総会は最高意思決定機関であると考えています。
しかしながら、多くの医療法人では社員総会は予算決定と決算決定のために年2回開かれるのが精々で、それすら形骸化していて書類上開催した体裁になっているだけの医療法人も見受けられます。そのため、実際に医療法人で社員・理事をされている方には、社員総会にそれほどの大きな権限があるようには思えないかもしれません。これは法律と医療法人の定款が次のようになっていることが原因だと思われます。
医療法人についてのルールを定めている法律が医療法ですが、その医療法では、「社団たる医療法人の業務は、定款で理事その他の役員に委任したものを除き、すべて社員総会の決議によって行う」(医療法第48条の3第7項)とされています。
そして、多くの医療法人では定款に「理事が通常業務を処理する」というような内容の文言が入っています。
つまり、医療法人では通常業務についての決定や遂行は理事に任せられていることになります。そのため、通常業務に関しては社員総会を開かず、会議で何かを決めるとしても理事会で済ませることが多い、ということになるのです。
ただし、医療法の書き方を見てもらえるとわかるように、原則は、社員総会が全てを決めるという前提になっています。定款では、役員の選任以外にも以下のように重要な事項については社員総会で決めるべきであるとして列挙されています。
(1) 定款の変更
(2) 基本財産の設定及び処分(担保提供を含む。)
(3) 毎事業年度の事業計画の決定及び変更
(4) 収支予算及び決算の決定
(5) 剰余金又は損失金の処理
(6) 借入金額の最高限度の決定
(7) 社員の入社及び除名
(8) 社団の解散
(9) 他の医療法人との合併契約の締結
(10) その他重要な事項
これらの事項を、社員総会の決議を得ないで行ってしまったりあるいは決議を得ていたとしても手続きに不備があったりすると後々問題となることもあります。
中でも(7)社員の入社及び除名、については大きな争いに発展しがちです。
除名については、その要件として「社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為のあった者」とされている場合や、決議を採るにあたって「社員総数の過半数の出席、出席社員の過半数の賛成で十分」としている医療法人もある一方で「社員総数の3分の2以上出席、出席社員の3分の2以上の賛成が必要」としている医療法人もあるため、要件を満たしているか、手続を正しく行っているかといった点をよく確認する必要があります。
医療法・定款に則った適切な決議を行っていなかった場合には、除名された社員から社員総会の決議が無効あるいは不存在として裁判を起こされることになります。数年に渡る裁判を経た上で敗訴し、また元通りに戻ってしまう、ということもあります。
次回は医療法人の監事について説明いたします。
(平成26年2月10日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。