医療法人が出資持分払戻の裁判で第一審判決が出されるまでに準備すること(後半)
前回は、医療法人の出資持分払戻の最初の判決(地方裁判所での判決。第一審判決といいます)が出る時点までに金銭の都合をつけておくべき場合があることを書きました。
今回は、医療法人側が強制執行を回避しようとした場合に何をすべきかということについて説明をいたします。
たとえば、6000万円の支払いを求められた出資持分払戻請求の訴訟において、医療法人側が「退社社員が出資持分を持っていることは認めるが、退社社員が求めている金額については納得できない」というような事例で判決まで進んだ場合を想定します。
医療法人側が「4000万円以上の判決が出た場合には高等裁判所へ不服を申し立てたいが、強制執行は避けたい」というスタンスだった場合、医療法人側の弁護士は、「強制執行の停止」の準備をすることになります。
「強制執行の停止」という裁判所に対する手続きによって文字通り強制執行を止めることができます。医療法人側敗訴の判決を出した裁判所に、「強制執行停止申立書」という書類を提出します。
「強制執行の停止」が認められるためには、(1)2番目の裁判所である高等裁判所に不服を申し立てていること(控訴)、(2)強制執行によって著しい損害が生じるおそれがあることなどの事情があること、(3)担保として金銭を積むこと、が必要となります。
ここで最も重要な点は担保としてお金を積む必要があることです。裁判官が金額を決めます。法律では担保を積まなくてもよい場合もあるとされていますが、少なくとも私は経験したことはありません。担保を積むことができれば多くの場合「強制執行の停止」は認められます。
担保の金額ですが、おおよそ判決で認められた金額の6割から8割とされることが多いでしょう。先ほどの例で「医療法人は退社社員へ金6000万円を支払え」という判決が出たとすると、3600万円から4800万円程度の金額が担保として必要、ということになります。
そのため、事案によっては相当高額になることもあります。金融機関からの借り入れが必要となる場合もありますが、このときには医療法人側で金融機関と事前に協議をしておく必要があります。
なお、担保は裁判所とは別の法務局という役所に納めることになります。
退社社員が勝訴判決をもらうと、その時点から退社社員側は強制執行の手続きを行うことができます。そのため、医療法人側としては急いで「強制執行の停止」を得る必要があります。判決の当日に「強制執行の停止」を得られるとは限りません。私の場合は「強制執行の停止」が見込まれる判決の日の後2、3日は余裕を持ったスケジュールにしておくようにしています。
医療法人側としては、最初の裁判の判決がどのようになるのかということを見極めて、事前に資金手当てをしておく必要があるか判断することになります。出資持分払戻請求訴訟を担当している弁護士とよく協議をしておくべきでしょう。
余談になりますが、退社社員側の弁護士としては、2番目の裁判所である高等裁判所への不服を申し立て(控訴)の際に裁判所に納めなければならない手数料(印紙代)について説明しておく必要があるでしょう。
たとえば、退社社員が10億円の出資持分払戻請求訴訟を起こしたけれども、最初の裁判所(第一審)で一切認められなかったという場合、高等裁判所において判断をしてもらうためには手数料(印紙代)として453万円を支払わなければなりません。この手数料は法律で決められており、裁判で求める金額が大きくなると軽視できない金額になってきます。
私の場合は、「敗訴することを仮定した話にはなってしまい申し訳ないのですが」と前置きした上で、事件をお受けする前の時点でこの話をすることにしています。