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医療事件における美容外科・美容整形特有の問題について
医療事件・医療過誤などといわれる損害賠償事件、もう少し単純に言いますと「患者から医療ミスがあったとして医者が訴えられる」という場合にどのような流れで進んでいくのかということについては医療事件の民事手続き(民事事件)の流れにおいて説明いたしました。美容についても基本的には同じような流れで手続きは進んでいきます。
しかしながら、美容医療特有の問題というものもあります。
例えば、美容の場合、結果が芳しくなかった場合に他の診療科目に比べて容易に問題化してしまうことが多いという特徴を挙げることができます。他の診療科目の場合ですと、医療行為は治癒することを保証するものではありませんので、「治らなかった=訴訟」ということには直結はしませんが、美容の場合には、もともと患者さんとしても美しくなるためなど積極的な意志を持って美容医療を受けに来ているのですから、それにも関わらずよくない結果が発生した場合(醜状が残る等)には容易に問題化してしまうという傾向があります。
また、医師側としては客観的に十分な結果が出ていると判断しているけれども、患者さんの主観としては失敗だと認識している、という場合も見受けられます。
今回は、このような美容外科・美容整形の医療事件に特有の問題について解説をしていきたいと思います。
問題点①:美容外科・美容整形には通常の医師賠償責任保険が適用されないこと
美容医療、美容外科、美容整形を行うにあたって過失があったとして医師が損害賠償を求められた時に、他の診療科目の場合と明確に差が出てくるのが医師賠償責任保険の点だと私(鈴木)は考えています。
美容を目的としない治療の過程で何らかの傷害が生じてしまったとして、患者から医師個人あるいは医療法人が訴えられた際には、普通であれば医師個人あるいは施設・法人で加入している医師賠償責任保険の適用があります。
たとえば、日本医師会のA会員であれば個別の加入手続きをすることなく日本医師会医師賠償責任保険の対象となりますし、そうでなくても医療施設・医療法人が民間の医師賠償責任保険に加入しているなどして保険の対象となることがほとんどでしょう。
そのため、医師等が何らかの請求を受けた場合には、医師会あるいは保険会社に報告を挙げた上で、医師会・保険会社の選んだ弁護士に委任(弁護士に依頼する費用も保険から支払われます)することになることがほとんどです。
しかし、このような医師賠償責任保険は、医師の行う全ての医療行為に適用があるわけではありません。多くの場合、通常の医師賠償責任保険では、「美容を主たる(or唯一の)目的とする医療行為」によって生じた事故については対象とならないとされています。
つまり、美容だけが目的の医療行為の場合にはこのような保険ではカバーされない、ということになっているのです。
もちろん、美容医療等を対象とした賠償責任保険もあるにはあるのですが、保険によってカバーされる賠償金額が通常の医師賠償責任保険より低く抑えられているなど、現状においては残念ながら保障される範囲が十分とはいえない面があります。
そのため、美容医療等について、医師もしくは医療法人(クリニック・病院等)が損害賠償を求められた場合には、医師・医療法人が自らの判断で弁護士を選ばなければなりませんし、最終的に患者側に何らかの金銭を支払うことになった際にも自身の財産から支払わなければならない、という状況になることが多いのです。
美容外科・美容整形・美容皮膚科等で開業をされている先生方が実際にご自身が当事者となった際には、このようなことはかなりの心理的・経済的な負担となるようです。
問題点②:医療事故訴訟の経験をしている弁護士を探すことが難しいこと
美容医療等で訴訟等になるかもしれないという状況になった際にも、なかなか医療訴訟の経験のある弁護士を探すことが難しいという問題もあります。
弁護士側も、医療事件については患者側で担当したことはあるということはあるかもしれませんが、医師・医療機関側で訴訟を担当したことのある弁護士はそんなに多くはないでしょう。それというのも、前述のように医師・医療機関側の代理人については、ほとんどが医師会あるいは保険会社の顧問弁護士が担当していることが多く(医師・医療法人の顧問弁護士が医師会や保険会社の了解を受けて担当することはあり得ます)、医者側医療訴訟については経験の蓄積に偏りが生じているためです。
このように美容医療をされている先生方としては、医者側医療訴訟の経験を有する弁護士にアクセスすることが中々難しいように思われます。
問題点③:医師に求められる注意義務や説明義務等が他の医療事件とは異なること
美容医療等の訴訟について私(鈴木)が他の医療事件とは違っていると考える点は2点あります。
(1) 裁判になった際に、医師に対して求められる注意義務の要求される水準が高く考えられることが多いということです。
先生としては、「美容は、差し迫った命の危機に対処するものではないし、本人の要望によって行うものであるから、医師として注意すべき程度はそれほど厳しくないのではないか?」とお考えになられることがあるようですが、裁判所としては逆に「差し迫った命の危機がない状態で行われる医療行為なので、より慎重に検討する時間、状況がある」として高い注意義務を求める傾向にあるようです。
このことをお話しすると多くの先生は驚かれます。
(2)説明義務についても同様にかなり高いものとなります。これは注意義務と同様の考え方で、説明義務についても要求される水準は高いものとなりがちです。
患者がどのような結果を求めているのかを正確に聴き取って把握したのか?それに対して具体的にどのようなリスクを説明したのか?という説明義務を果たしたのか否かが問題となりますが、美容医療における「結果」というものが常に明確とはいえないため、説明義務を果たしたかどうかということについては事案によって相当な違いが生じてきます。
まとめ
美容医療の医療事件においては、特に医師賠償責任保険の適用がないという点からか、当事者となった医師が最適な法的リソースにアクセスすることができず、裁判外の段階で個人的な金銭の出費をして解決する、というようなことも少なくないようです。
もちろん、医師自身に過失があったという認識がある場合で、事案に応じた妥当な金額を支払うというのであれば何ら問題はありません。ただ、医療事件についての法律の専門家にアクセスができないというだけで過失がないような事案で支払いをしたり、あるいは事案と比較して高額すぎる金銭の支払いをしなければならなくなる、というのは望ましいことではないと考えます。
下記の通り、当事務所では医師側・医療機関側の医療事件を担当しております。具体的事案については個別にご相談下さい。
(平成27年7月24日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。
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