目次
弁護士鈴木沙良夢による医療法人議事録の書き方入門(3)
【出席者】の書き方
今回は議事録における【出席者】の書き方について解説いたします。
前回から引き続き、架空の医療法人を設定して説明してみることにします(私の名字をモチーフにして、私の法律事務所所在地に医療法人とクリニックがあるという設定にしてあります)。
以下の社員構成・理事構成の医療法人において、ある日、社員総会を開催して引き続き理事会も開催した、という場面設定です。
医療法人名:医療法人鈴木会
開設しているクリニック:鈴木クリニック
医療法人とクリニックの所在地:東京都新宿区馬場下町62
社員は
鈴木一郎(理事長)
鈴木春子(理事長の妻)
鈴木二郎(理事長の弟)
田中大助(知人)
渡辺博(知人で監事)
の5名理事は
鈴木一郎(理事長)
鈴木春子(理事長の妻)
鈴木二郎(理事長の弟)
田中大助(知人)
佐藤隆(院長)
の5名
社員と理事とで構成員が完全に一致していませんが、医療法人ではこのようなこともありえます。社員=理事というように一致するとは限りません。社員総会に出席するのはあくまで社員、理事会に出席するのは理事ですのでこの点には注意が必要です。例えば、病院・診療所の管理者は理事に加えなければならないと法律で定められていますが、その院長・理事を医療法人の社員には加えなかったというような場合、その院長は医療法人の理事ではあっても社員ではないということになりますので注意が必要です
それではまず、社員総会議事録の【出席者】をどのように書いていけばよいのか見ていきましょう。
社員総会議事録における【出席者】の意味
【出席者】の記載は「社員総会に実際に誰が出席したのか」ということが問題になったときに最初に確認される箇所になります。
ある社員総会において行われた議決が形式上有効であるかどうかについては、一番はじめには医療法人の社員総数と出席者の数との関係で判断されるためとても重要な項目です。
医療法人の社員総会は、法律においても定款に別段の定めがある場合を除いて、総社員の過半数の出席がなければ、議事を開いたり議決することができないとされています。そして、社員総会に総社員の過半数の出席がされていることを「定足数をみたす」といいます。
具体例でお話ししましょう。例えば、例の医療法人鈴木会において社員総会を開いたとします。このとき実際に社員総会に出た出席者が鈴木一郎、鈴木春子の2名だけだったとします。他の3名は委任状の提出もしていませんでした。そうすると医療法人鈴木会の社員総数が5名であるのに、社員総会には2名しか出席しなかったということになります。さきほど述べましたように、法律で社員総数の過半数が出席しないと議事が開けないし議決もできない、とされていますので社員総会は開けませんし、社員総会で議決をすることはできないということになります。
この点で、気をつけるべきところは、どのような場合でも総社員の過半数の出席があればよいというではないということです。法律でも「定款に別段の定めがある場合を除いて」となっているように、医療法人によっては議案の内容によって、定款で過半数よりも多くの社員の出席が要求されている場合があります。定款の変更、社員の除名、解散などを議案として議決する場合について総社員の三分の二以上の出席が必要とされている医療法人もあります(このような出席者数の要件を議案によって加重しているのはどちらかといえば歴史の古い医療法人が多いです)。なお、このような出席者数を加重する規定がない医療法人もあります。
定款の変更、社員の除名及び解散の議決は、社員の3分の2以上が出席し、その3分の2以上の同意を要する。
この度、医療法人鈴木会で、分院として診療所を作るということになったとします。この場合には新しく開設する診療所を定款の「名称と開設場所」に追加しなければなりません。つまり、定款の変更が必要になります。 そして医療法人鈴木会において、定款の変更をする際には総社員の3分の2以上の出席が要求されていたとします。
通常の議決をするにあたっては総社員の過半数が出席していればよいのですから、例えば身内である鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎が出席していれば十分なのですが、定款の変更の場合にはその3名の出席では足りないということなのです。総社員5名の内の3名の出席ということですと「総社員の三分の二以上の出席」という条件を満たさないためです(5分の3(0.6)<3分の2(0.666…))。
社員総会議事録における【出席者】の書き方
【出席者】を書く時に大事なのは、上でお話ししたとおり、社員の総数が何人+誰でそのうち何人+誰が社員総会に出席したか、ということになります。外してはならない項目は社員の総数、全ての社員の名前、出席した社員の数、出席した社員の名前になります。
例えば、医療法人鈴木会で社員総会が開かれ、総社員鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎、渡辺博、田中大助のうち鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎、渡辺博が出席したとします。その場合の出席者の書き方は以下のとおりです。
社員の現在数及び氏名
現在数:5名
氏名:鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎、渡辺博、田中大助出席社員の数及び氏名
出席社員の数:4名
氏名:鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎、渡辺博
(本社団社員総数5名中4名出席)
理事会議事録における【出席者】の意味と書き方
理事会における【出席者】は社員総会と異なって定足数などはあまり厳格には定められていないことが多いです。
ただ、基本的には社員総会と同じように書くことになります。
例えば、医療法人鈴木会で理事会が開かれ、理事の鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎、佐藤隆、田中大助のうち鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎、佐藤隆が出席したとします。その場合の出席者の書き方は以下のとおりです。
理事の現在数及び氏名
現在数:5名
氏名:鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎、佐藤隆、田中大助出席理事の数及び氏名
出席社員の数:4名
氏名:鈴木一郎、鈴木春子、鈴木二郎、佐藤隆
(本社団理事総数5名中4名出席)
まとめ
今回は【出席者】の一般的な書き方を解説いたしました。社員総会において特別利害関係に関する議決などがなされる場合には、今回の書き方の他に特別な配慮をする必要があります。
個別の事案への対応については当事務所(鈴木沙良夢法律事務所)までお問い合わせ下さい。
次回は会議開催の要領、特に大事な社員総会の議長選任の経緯の書き方を解説いたします。
(平成28年5月4日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。