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看護師に対する奨学金の貸付
病院にとって優秀な看護師の養成及びその定着は急務といえます。そのために病院側が看護学生に看護学校の入学金や学費相当額を奨学金として貸与し、そのかわり看護資格を習得した後には、その病院で一定期間勤務することを求め、当該期間を勤めあげれば貸付金の返済を免除するという形になっていることが多いかと思われます。これは俗に「お礼奉公」と呼ばれており、広く行われています。
お礼奉公の法律的な問題点
・労働基準法第16条
労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています。これに反するような契約は無効となります。
奨学金を貸与して、一定期間働いた場合は返済を免除するという形であれば、この条文には反しないようにも思われます。しかし、実態は賃金の一部として支給されたものなのではないかということが問題になり、賃金の一部という話になると違約金の定めであると判断して無効となる可能性が出てきます。
・勤務期間と全額返済
仮に、「資格取得後6年間は勤務すること。途中自己都合で退職した場合には奨学金全額を直ちに返済すること」という内容の約束をしたとします。この場合で看護師が1年8ヶ月勤めた後に退職したとする場合、全額の返還は認められないと思われます。
裁判所の判断
この点については最高裁の判断はなされていません。しかし、概ね奨学金全額の返還を認められることは少ないように見受けられます。
対応策
奨学金を支給するにあたって、労働契約と奨学金貸与契約を分けることが必要です。また、就業規則にも奨学金を貸与した場合の規定を整備しておくことが重要です。